予防について

マダニによる被害

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マダニは、ダニ類の中でも比較的大型で、成長や産卵のため脊椎動物の血液を栄養源として利用する、吸血性の節足動物です。
世界中に800以上の種が知られており、そのうち日本には47種が生息しており、ダニの種類によって生息する地域や環境が異なります。

牛、馬、イノシシやシカなどの大型動物、犬や猫、鳥類やげっ歯類にも寄生する種もおり、人にも寄生します。
山林、公園や河川敷、牧野、林など、人間の生活圏にも生息しています。
普段は日陰にある草木の葉の裏などで、動物が近くを通るのを待ち伏せしています。
マダニの第一脚には二酸化炭素等を感知する器官があり、近くに動物が接近するとこの器官で察知し、第一脚を高くあげて動物の体表上に乗り移ることで寄生を開始します。

マダニ
ズボンについたマダニ

一度に数千個を産卵

一般的に、越冬した成ダニは春先から初夏にかけて吸血源動物に寄生し、吸血したメス成ダニが一度に数千個の産卵をします。
そのため、秋には卵から生まれた幼ダニが大発生します。
この幼ダニが吸血・脱皮後に若ダニの状態で越冬し、春先に発生します。

つまり、春先から初夏にかけては若ダニと成ダニが、そして秋には幼ダニの活動が活発になり、一年を通して人間やペットを含めた動物が寄生を受けることになります。
ダニの種類によっても活動時期が異なります。

病気を媒介する

マダニは成長過程で吸血を3回、脱皮を2回します。
宿主に固着するためのセメント様物質を唾液膜より分泌、その後、抗凝固物質などを皮下に注入し、吸血をしやすくします。
唾液腺物質とともに各種病原体が吸血源動物に注入されることで、マダニ媒介性感染症が発生します。

マダニ媒介性感染症は、マダニによって病原体が伝播される感染症の総称で、以下のような公衆衛生上重要な疾患が含まれます。

  • 日本紅斑熱
  • ライム病
  • 重症熱性血小板減少症(SFTS)
  • ウイルス性出血熱

上記の他、犬へのマダニの被害は、大量寄生による失血性貧血、Babesia gibsoniというバベシア属の原虫が感染し赤血球に寄生することによる溶血性貧血(赤血球の破壊)により、重症例では死亡することもあります。

最も注意すべき感染症

日本において、最も注意すべきマダニ媒介性感染症は重症熱性血小板減少症(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)です。
SFTSはマダニ媒介性の人獣共通感染症で、ブニヤウイルス目フレボウイルス属に分類される新規ウイルスDavie bandavirus(以下:SFTSウイルス)が原因です。

SFTSウイルスは2011年に中国で発見され、日本で流行する致死率の高い(2024年1月31日時点の感染者939人中104人死亡=致死率11%)人獣共通感染症であり、人の感染症予防法では4類感染症に指定されており、届出対象です。

SFTSウイルスは多くの種の動物に感染すると考えられ、牛、羊、山羊、豚、鶏、犬、猫、鹿、猪、げっ歯類、タヌキ、アナグマ、猿、ハクビシンなどで報告されていますが、このうち症状を発症することが確認されているのは人、猫、チーター、および犬のみです。

SFTSウイルスはマダニ(フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニ他)が媒介し、吸血により人や動物に感染します。
その他、SFTS発症動物から人への感染事例が確認されており、濃厚接触や咬傷により感染する可能性が示唆されています。

また、2023年4月には日本国内でも、医療従事者におけるヒト – ヒト感染例が確認されました。
医療現場や家庭内での濃厚接触、死後の遺体処理などが原因で感染するとされています。

私たち獣医療の現場においても、SFTS発症動物の診療に従事した動物病院関係者のSFTS発症事例が報告されています。
西日本での発生が多いとされていましたが、近年では東日本でも人において感染が確認されています。
ペットでは、犬よりも猫の方が感受性・致死率が高いとされています。

SFTSに感染すると

猫の症状

猫がSFTSを発症すると、以下の症状が表れます。

  • 元気・食欲消失(100%)
  • 黄疸(95%)
  • 発熱(78%)
  • 嘔吐(61%)
  • 下痢(7%)

血液学的検査では、以下の所見が観察されます。

  • CK/CPK上昇(100%)
  • 血小板減少(98%)
  • T-Bil上昇;黄疸(95%)
  • 肝酵素AST/GOT上昇(91%)
  • 白血球減少(81%)

致死率は約60%と非常に高確率です。
また、以下の点に注意する必要があります。

  1. 原因は不明だがマダニ予防を定期的に実施していたネコでも発症例があった。
  2. すべての年齢で発症がみられた。高齢ネコだけではない。
  3. ネコーネコ感染が起こっている可能性がある。
  4. ネコーヒト感染が咬傷あるいは濃厚接触により起こっている。特に、獣医療関係者・飼い主はリスクが高い。発症ネコの唾液・糞便・尿中からウイルスが排泄されており、すべての体液に注意が必要である。

当院でも過去、猫においてSFTS感染が確定診断された症例がありました。
詳しくは、別の記事にまとめました。

あわせて読みたい
猫のSFTS発生事例
猫のSFTS発生事例

犬の症状

犬がSFTSに感染すると、以下の症状が認められます。

  • 元気・食欲低下(100%)
  • 発熱(100%)
  • 白血球減少(100%)
  • 血小板減少(100%)
  • 肝酵素ALT/GPT上昇(100%)
  • 消化器症状(75%)
  • T-Bil上昇;黄疸(50%)

致死率は40%とされています。
犬においても以下の点に注意する必要があります。

  1. SFTS発症イヌから飼い主・獣医療関係者への濃厚接触により感染が発生している。
  2. ネコと同じくマダニ予防をしていても発症した個体がいる。

人の症状

人がSFTSに感染すると、6〜14日の潜伏期間の後、発熱・頭痛・全身倦怠感・下痢・嘔吐等の消化器症状、意識障害等を発症し、血液検査で血小板減少や白血球減少が、生化学検査によりALT、AST、LDH、CKの上昇が認められます。

重症例では骨髄検査によりマクロファージによる血球貪食像(血球貪食症候群)の所見が認められます。
播種性血管内凝固症候群(DIC)に基づく血液凝固系の異常も認められます。
多臓器不全を伴うことが多く、致死率は10〜30%と高く、壮年・高齢者で症状が重くなる傾向があります。
日本感染症学会ホームページより引用)

現時点で動物に実施できる特異的な治療法はありません。
二次感染予防のための抗菌薬投与、輸液による水分および電解質補正、制吐剤投与などの対症療法のため入院治療が推奨されます。
人のSFTSにおいては抗ウイルス薬のファビピラビルの治療効果が期待されていますが、獣医療への応用は難しいと考えられています。

このようにマダニは犬・猫だけでなく、人間にも深刻な被害をもたらします。
フェリーチェペットクリニックでは、一年を通した予防を推奨しています。
詳しくは「予防について」をご覧ください。

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