猫の病気

猫免疫不全ウイルスについて

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猫免疫不全ウイルス (Feline immunodeficiency virus:FIV) 感染症は、レトロウイルス科レンチウイルス属猫レンチウイルス群の猫免疫不全ウイルスの感染による病態です。
日本はイタリアと並んで世界中で最も陽性率が高く、12%にも及びます。
外猫と内猫の比率では、日本では19:1と圧倒的に外猫に多く、オス猫はメス猫の2倍以上あることから、感染は屋外でのケンカを通じて起こる可能性が最も高いと考えられます。

感染猫の血中および脳脊髄液、唾液には感染性ウイルスが存在し、主に咬傷を通じて唾液による感染が起こると考えられています。接触水平感染、垂直感染、交尾を介した感染はまれです。

一度感染すると回復しない

咬傷などで皮膚から侵入したFIVは皮膚樹状細胞での増殖を介してリンパ節のリンパ球に感染し、感染から1〜2ヶ月後に抗体が陽転、その後、持続感染となり、終生ウイルスと抗体を保有し続けます。
一度感染すると、回復する個体はなく、全例が持続感染します。

臨床病期としては以下の5期に分類されます。

1)急性期

感染後2週以降にみられ、1〜2ヶ月間持続します。
発熱、リンパ節腫大、下痢、リンパ球減少症などが現れますが、気づかれないことも多いようです。
子猫の場合は細菌性腸炎や細菌性肺炎で死亡することもありますが、成猫では自然に終息し無症状となります。

2)無症候性キャリア

持続期間は平均2〜4年くらいと言われています。

3)持続性全身性リンパ節腫大(PGL)

2〜4ヶ月と短く、見逃されることが多いようです。

4)AIDS関連症候群(ARC)

原因不明発熱、体重減少、慢性口内炎、慢性上部気道疾患、慢性化膿性皮膚疾患など様々な慢性疾患が見られ、軽度の貧血を呈することが多くあります。
持続期間は通常1年程度で、多くは後天性免疫不全症候群(AIDS)に移行しますが、ARC期のまま長期間生存する子もいます。

5)後天性免疫不全症候群(AIDS)

ガリガリに痩せる、貧血、汎血球減少症、腫瘍などが認められます。
猫免疫不全ウイルスには発がん性はないと考えられますが、免疫不全により間接的に関連していると思われます。

関連疾患

関連疾患として、症例の約半数に口腔内(特に歯肉、歯周組織、頬、口峡部、舌)の慢性進行性感染と炎症が認められるのが特徴です。
 その他、慢性呼吸器感染症、皮膚/外耳道慢性感染症、慢性腸炎、膀胱炎、尿路感染症、寄生虫性疾患(ニキビダニ、疥癬、回虫)なども見られます。神経症状は発症猫の約5%で見られ、怯える、隠れるなどの性格の変化が主体です。非感染例と比較し猫伝染性腹膜炎(FIP)が起こりやすい可能性が示唆されています。

診断と治療

 FIV感染症の診断はELISAによる抗体の検出により行われ、通常、FeLV抗原検出とセットになった院内検査用キットで行います。
最終判定は曝露の可能性があった最後の日(=お家に迎え入れた日)から60日経ってから行います。
ELISA陽性と判定されてしまったら、1ヶ月後に再検査を行います。
6ヶ月齢未満の子猫においては移行抗体の可能性もあり、また、現在は製造中止となったFIVワクチン接種例でも交代陽性となるため、陽性結果は慎重に判断します。
PCR検査を行うこともあります。

猫免疫不全ウイルス感染に対する特異的な治療はありませんが、インターフェロン-ωが有効であったとの報告もあります。
最高の感染防御は、感染猫との接触を断つことであり、感染猫との接触を断つためには室内飼育が最も有効だと考えます。

FIVの最終判定は感染の可能性があった最後の日(=お家に迎え入れた日)から60日経ってから行うべきとの考えから、フェリーチェペットクリニックでは、先住猫がいるご家庭に、お外で出会った猫を迎え入れる場合は、2ヶ月間の隔離を推奨しています。

一度感染してしまうと回復することはない猫免疫不全ウイルスはもちろん、陰転する可能性はあるが持続感染になってしまう可能性もある猫白血病ウイルスも、万が一にも先住ニャンコ様たちに感染が拡大してしまうことがあっては後悔しかありません。

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